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『王の帰還』を観る

というわけで、昨夜は渋谷ジョイシネマという映画館で『ロード・オブ・ザ・リング~王の帰還』を観る。言うまでもなく(?)、J.R.R.トールキン『指輪物語』を原作とする映画3部作の完結編だ。

以前にも書いたように、私はこの原作『指輪物語』を高校1年のときに初めて読み、それ以来、何度読み返したか覚えていないほどのファンである。実に、文庫本で9冊(+追補編)。さらにその前物語に当たる『ホビットの冒険』、さらにさらに『指輪物語』に先立つ創世神話にさかのぼる『シルマリルの物語』もある。

私はわりと長い小説を好む傾向がある。『戦争と平和』も好きだし『マシアス・ギリの失脚』も好きだし……。長ければいいというものでもないが、何となく長時間かけて読んでいるあいだに、その作品の世界がリアリティをもって感じられてくる、そういう感覚が好きなのかもしれない。通勤途中の電車のなかで、「そういえばあいつはどうしているかな」と思ったりするのだ(「あいつ」とはそのとき読んでいる小説の登場人物である)。

『指輪物語』は、その意味では完璧といえよう。

さて映画『王の帰還』の感想は、やはりまだ観ていない人へのネタバレになるので↓の「続き」で書くことにする。

それにしても、自宅でビデオを観るのと同じ感覚で映画館に来る人間はどうにかならないものか。隣の客が上演中にも食べつづけるスナック菓子の匂いが鼻についてならなかった……。まぁ19時からの上映で3時間超の大作だから、夕食取る暇なしに来たのだったら腹減るのは分からなくはないけど。

まず書いておかなければならないのは、映画よりも原作のほうがはるかに面白い、ということだ。細かい設定は深いし、伏線もいろいろよく考えられている。もちろん、ピーター・ジャクソン監督もそのへんを熟知したうえで作っているのだが、やはり映画館で上映可能な時間に収める都合上、かなりはしょられている部分がある。

ただし以前に、この映画化を否定しているわけではないと書いたとおり、作品の出来としては素晴らしい。「原作の方が面白いけど、映画のほうが凄い」とでも言おうか。もっともこれは、そのままひっくり返して、「映画のほうが面白いけど、原作のほうが凄い」とも言えてしまうので難しいところだ。

さて原作のファンであり、前2作の公開版及びDVDで発売されたSpecial Extended Edition(SEE)を観たという立場で、『王の帰還』の感想を思いつくままに。順番もシーンどおりではないかもしれないが……。

冒頭、ありし日のスメアゴルが友人デアゴルを殺して指輪を奪うシーンは、う~ん、どうかなぁ。むしろ第二部でこのシーンがあってもよかったかもしれないが、第三部の冒頭としてはちょっと弱いような気がする。

ヘルム峡谷の戦いを終えたローハンの祝勝の宴は原作にあったかな? なんだかちょっと悠長な雰囲気になってしまった感がある。ピピンがパランティアを覗くシーンについては、その様子を外から(メリーの視点で)見ている映像よりも、「ガラドリエルの泉」のシーン同様、パランティアに引き込まれる心象風景であってほしかったかな。あと、アラゴルンはきちんとパランティアを扱えるはず。

鍛えなおされたエレンディルの剣をエルロンドが渡しに来るというのはなかなかうまく考えたなという感じ。アラゴルンの仲間のドゥネダインたちも登場してほしかったところだが、まぁエルロンドが渡しにくるならいいかという感じ。

ゴンドールの烽火が上がるのがガンダルフ&ピピンの策略というのは面白いけど、絵的には、やはりゴンドールに向けて疾駆するガンダルフ&ピピンが目にするという原作の設定が印象的だったような。

「死者の道」のあたりは原作とは結構離れているけど、特に文句はない。恐らく『王の帰還』SEEでは彼らが海賊船を奪うシーンが追加されることだろう。もっとも、死者の軍勢がペレンノール野の合戦まで参加してしまうのはちょっとズルでないかという気もする。

ペレンノール野の合戦については、ローハン軍の数があまりにも多くないか? ナズグルの首領をメリー&エオウィンが倒すあたりは原作にかなり近く、見応えがあった。『二つの塔』でのセオデンの台詞「I know your face...Eowyn」が再度繰り返されるのには泣けた。海賊船到着のところは、ゴンドールの旗印が掲げられるという演出がほしかったけど、それ以前の段階でこの旗印があまり印象づけられていないから無理か。レゴラスの立ち回りはあくまでもファンサービスといったところ。

合戦後。アラゴルンがあっさり城に入っているのが原作ファンとしては不満。ギムリも執政の椅子にそんなに気軽に座ってちゃダメだよ。「王の手は癒しの手」がなかったのは残念。といっても、ナズグルの首領を倒したメリー&エオウィンがたいした傷を負っていないのだからしかたないか。2人が黒門前の戦いにも参加しているというのはちょっとなぁ……。

さてフロド&サム&ゴラムのほうだが、三角関係の描き方は絶妙。これは原作よりも説得力があるかも。キリス・ウンゴルからの黒の軍隊の出陣のとき、原作ではナズグルは馬に乗っていたのではなかったか。シェロブについては期待通り。サムがシェロブを傷つけるあたりも、かなり原作に近い設定になっていたので感心した。隣の女性客は目をそむけていたが(笑) キリス・ウンゴルでのフロド救出はあっさりしていたが、まぁ特に不満はない。サムから指輪を返してもらうときのフロドに、もっと指輪に蝕まれた邪悪さがほしかったかも(1作目でのビルボのような)。

その後の「滅びの亀裂」までの旅は、何と言っても時間的に短すぎる。しかしこれはしょうがないのだろう。原作ではここがたっぷり描かれていて、ひたすらうんざりするが、それがフロド&サムのしんどさへの共感にもつながっていたのに……映画だと辛すぎるかな。

黒門前の戦いについては、原作にある「サウロンの口」とのやり取りは面白いので残してもらいたかった。ゴンドールの軍勢に対するアラゴルンの檄はむちゃくちゃかっこいい。原作にあったかと思ってチェックしたが、少なくともこのシーンでは見当たらなかった。ここでの戦闘については、ナズグルがもっともったいつけて現われて、「すべての希望が消え去りました」という原作の雰囲気がほしかったな。

滅びの山でのフロドとサムは、時間的には短いが、ゴラムとの絡みも含め、なかなか良かった。滅びの亀裂の前に立つシーンでは、「私はそれをしようとは思わない」という台詞は残してほしかったが、イライジャ・ウッドの演技は素晴らしい。ゴラムに指輪を奪われたフロドが、もう一度取り返そうとゴラムにつかみかかるが、やはりこれは狂喜乱舞するゴラムが勝手に転落する原作どおりの設定であってほしかったな。やはりサムとの「ふぁいとぉーいっぱぁつ」の絵を撮りたかったのだろうか。

「その後」については簡単に済ませよう。

戴冠式にアルウェンらが来るのはいいけど、王たるもの、そんな軽々しくラブシーンやっちゃダメだよ(笑) ホビット4人が並んでいるシーンで、メリー&ピピンとフロド&サムのあいだに身長差がさほどなかったのは、「エントの水で背が伸びる」のシーンが『二つの塔』SEEにしかなかったせいか。

指輪の仲間たちが別れていく過程もほしかったが、たぶんSEEで復活するかな? ホビット庄での戦いがなかったのは、まぁ予想通り。あんなに苦労したのに、ホビット庄は全然変わっていなくて、ヒーロー扱いもなしってのも、なかなかホビット庄らしくていいかもしれない。緑竜館で飲むビールのうまそうなことといったら。

その後のフロドの苦しみが十分に描かれていないので、灰色港からの西への船出はちょっと説得力が弱いかな。まぁシーンとして残っただけありがたいか。

と、だいたい感想(というか突っ込み)はこんなところ。ほとんど文句ばかりだが、実際にはとてもとても楽しめたし、ピーター・ジャクソン監督やキャストを含め製作に携わったすべての人に感謝感激なのである。

この映画化作品の素晴らしさは、見終わった後に、「あれ、原作ではどうなっていたっけ?」というのがとても気になるという点だ。むろん観る直前に読んでいればそんなことにもならないのかもしれないが……。

そして、原作を読むと「ああ、やっぱり原作のほうが深くて面白いな」と思うのだが、もはや原作を読んでいても登場人物の顔や景色は映画のものしかイメージできず、なんだかまた映像が観たくなり、改めて観ると、映画のほうもよく出来ていると感心させられる。映画と原作が、排他的なものでもなく、どちらが優れているというものでもなく、互いに補完しあう関係がみごとに生まれているように思う。

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2004年02月19日 12:23に投稿されたエントリーのページです。

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